校名がものをいうと言った親に推され、俺は一流の大学を卒業した。しかし、郷里に戻ることを強要された俺にはその一流の校名が仇となり、就職は困難を極めてしまった。どこへ行っても「うちでは勿体ない」と言う言葉がついて回った。
結局、校名も邪魔をしない、それでいて田舎では一番「イイ」とされる公務員に甘んじた。
それでも、そこは俺にとっては天国だった。
「直明、今日、一杯やってかねぇか?」
「わりぃ!これから現場だ。」
誘ってきたのは俺より四年先輩になる同い年の太田朋樹(おおた ともき)。入庁以来の親友だ。
「何時まで? いつもの店で待ってるから。」
「わかった。遅くなるようだったら連絡するわ。」
お茶を出しに来たアルバイトの子に出かけるから要らないと伝えると、俺は新しく開通させる道路の作業現場へと向った。
別に、どうしても行かなければならない現場でもない。しかし、机上の仕事はこういう秋晴れのぽかぽかとした陽気のときはどうしても眠くなるし、それに、あいつと一緒にいるのが最近は少し辛い。
俺が自分の性癖に気づいたのは小学生の頃だった。
少しずつ色気づいてきた友達と、クラスメートの女の子の誰がいいとか、バレンタインに何個チョコをもらうかとか、そんな話で盛り上がりはじめたころ、俺はどうしたって女の子より一番成績の良かった篤志くんに興味が惹かれた。
成績も良くてみんなの信頼も厚く、それでいてスポーツもできた。浅黒く日焼けした肌と半ズボンから覗く細くて長い脚が俺の鼓動を打ち鳴らした。中学へ入るとすぐに転向してしまった彼は今頃どこでどうしているのだろう?ふとした瞬間に思い出すことがある。
ぼんやりと車を走らせていると、いつの間にか現場へ着いていた。請負業者の作業員が暑そうに額に汗を滲ませながら現場監督の指示に従い右へ左へと忙しなく動いている。近くに車を停車させると、俺は監督の佐々木さんの元へと歩み寄った。
「お疲れっす。」
「おお、ご苦労様です。」
俺より二十歳近くも年上の彼は、立場上、俺に敬語で話しかける。俺は必要ないと何度も訴えたが、職員が代わったときに対応が面倒だから、と請け負ってはもらえなかった。それでも、最近はお互いに少し砕けてきて、時々はタメ語をきいてくれるようになった。
「どうっすか、進み具合は。」
「予定より少し遅れてるけどね、何とかなるでしょう。」
「ここ、思ったより地盤緩かったっすからね。」
「ボーリングであんなに苦労するとは予想外でしたしね。」
A市からO町までの新しい国道。それがゆくゆくはN県まで延長され、それを反対側のM県に繋ぐとこの界隈の人たちだけじゃなく、互いの過疎化した町や村も便利になるし、活気付くという。
大型車が街中を迂回しなくなるのも通学する子供たちの安全面で改良が見込まれるというものだ。
俺たちの職場は大きくふたつにその仕事が分かれていた。ひとつは既にある道路を維持するための維持管理課。もうひとつは新しく道路を作る建設課だ。
俺はその建設課に配属されて二年になる。公務員は目まぐるしく異動を余儀なくされる。ここでは大抵三年で別の部署へととばされる。二年目の俺は残ってあと一年。この道路の完成がなんとか見られるかもしれないという感じだ。
俺は作業予定表にざっと目を通して、監督と確認をとり、現場を少し手伝ってから帰路へ着くことにした。時計は午後六時を少し過ぎたところ。約束した店には十分に間に合う時間だった。
「あ、もしもし、俺。今終わったとこだけど、少し疲れたから、やっぱ、今日は止すわ。
うん。ん、そう、わりぃな。また今度誘って。じゃな。」
車に乗り込むと、朋樹に断りの電話を入れ、大音量にしたCDを聞きながら家路についた。
部屋に戻ると、誰もいない真っ暗な闇が冷たく迎えてくれる。返事の返らない空間に向って「ただいま」と告げると、車と家のキーをいつもの場所に放った。明かりもつけず、真っ直ぐ冷蔵庫へ向って、冷やしてあったビールを一本取り出す。ぐびりと喉を鳴らして煽ると、何も入れていない臓腑に炭酸が染み渡った。
「ふぅー」
そのままリビングのソファの前に腰を下ろす。ソファに凭れるように暗い部屋を眺めていると慣れてきた目に、暗闇に浮かぶ家具たちが映った。
朋樹―――
声にならない声でその名を呟く。どっと昼間の疲れが増したような気がした。
★ Serenata 2 へ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お付き合いいただき、ありがとうございます。
ぽち、拍手も、本当に、本当にありがとうございます。
みなさまのご慈愛が制作意欲の糧となっております。
予定では短編を掲載するはずだったのですが、短編にならなくなってしまいました(大汗)
しかも、まだ書き終えていないから見切り発進です。
先にRequiemの第八章を載せようかとも思ったのですが、季節を今にあわせてしまったので、こちらを先に・・・
こんな無計画で大丈夫か?!わたし・・・
とりあえず、新シリーズ(?)スタートです。
結局、校名も邪魔をしない、それでいて田舎では一番「イイ」とされる公務員に甘んじた。
それでも、そこは俺にとっては天国だった。
「直明、今日、一杯やってかねぇか?」
「わりぃ!これから現場だ。」
誘ってきたのは俺より四年先輩になる同い年の太田朋樹(おおた ともき)。入庁以来の親友だ。
「何時まで? いつもの店で待ってるから。」
「わかった。遅くなるようだったら連絡するわ。」
お茶を出しに来たアルバイトの子に出かけるから要らないと伝えると、俺は新しく開通させる道路の作業現場へと向った。
別に、どうしても行かなければならない現場でもない。しかし、机上の仕事はこういう秋晴れのぽかぽかとした陽気のときはどうしても眠くなるし、それに、あいつと一緒にいるのが最近は少し辛い。
俺が自分の性癖に気づいたのは小学生の頃だった。
少しずつ色気づいてきた友達と、クラスメートの女の子の誰がいいとか、バレンタインに何個チョコをもらうかとか、そんな話で盛り上がりはじめたころ、俺はどうしたって女の子より一番成績の良かった篤志くんに興味が惹かれた。
成績も良くてみんなの信頼も厚く、それでいてスポーツもできた。浅黒く日焼けした肌と半ズボンから覗く細くて長い脚が俺の鼓動を打ち鳴らした。中学へ入るとすぐに転向してしまった彼は今頃どこでどうしているのだろう?ふとした瞬間に思い出すことがある。
ぼんやりと車を走らせていると、いつの間にか現場へ着いていた。請負業者の作業員が暑そうに額に汗を滲ませながら現場監督の指示に従い右へ左へと忙しなく動いている。近くに車を停車させると、俺は監督の佐々木さんの元へと歩み寄った。
「お疲れっす。」
「おお、ご苦労様です。」
俺より二十歳近くも年上の彼は、立場上、俺に敬語で話しかける。俺は必要ないと何度も訴えたが、職員が代わったときに対応が面倒だから、と請け負ってはもらえなかった。それでも、最近はお互いに少し砕けてきて、時々はタメ語をきいてくれるようになった。
「どうっすか、進み具合は。」
「予定より少し遅れてるけどね、何とかなるでしょう。」
「ここ、思ったより地盤緩かったっすからね。」
「ボーリングであんなに苦労するとは予想外でしたしね。」
A市からO町までの新しい国道。それがゆくゆくはN県まで延長され、それを反対側のM県に繋ぐとこの界隈の人たちだけじゃなく、互いの過疎化した町や村も便利になるし、活気付くという。
大型車が街中を迂回しなくなるのも通学する子供たちの安全面で改良が見込まれるというものだ。
俺たちの職場は大きくふたつにその仕事が分かれていた。ひとつは既にある道路を維持するための維持管理課。もうひとつは新しく道路を作る建設課だ。
俺はその建設課に配属されて二年になる。公務員は目まぐるしく異動を余儀なくされる。ここでは大抵三年で別の部署へととばされる。二年目の俺は残ってあと一年。この道路の完成がなんとか見られるかもしれないという感じだ。
俺は作業予定表にざっと目を通して、監督と確認をとり、現場を少し手伝ってから帰路へ着くことにした。時計は午後六時を少し過ぎたところ。約束した店には十分に間に合う時間だった。
「あ、もしもし、俺。今終わったとこだけど、少し疲れたから、やっぱ、今日は止すわ。
うん。ん、そう、わりぃな。また今度誘って。じゃな。」
車に乗り込むと、朋樹に断りの電話を入れ、大音量にしたCDを聞きながら家路についた。
部屋に戻ると、誰もいない真っ暗な闇が冷たく迎えてくれる。返事の返らない空間に向って「ただいま」と告げると、車と家のキーをいつもの場所に放った。明かりもつけず、真っ直ぐ冷蔵庫へ向って、冷やしてあったビールを一本取り出す。ぐびりと喉を鳴らして煽ると、何も入れていない臓腑に炭酸が染み渡った。
「ふぅー」
そのままリビングのソファの前に腰を下ろす。ソファに凭れるように暗い部屋を眺めていると慣れてきた目に、暗闇に浮かぶ家具たちが映った。
朋樹―――
声にならない声でその名を呟く。どっと昼間の疲れが増したような気がした。
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◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お付き合いいただき、ありがとうございます。
ぽち、拍手も、本当に、本当にありがとうございます。
みなさまのご慈愛が制作意欲の糧となっております。
予定では短編を掲載するはずだったのですが、短編にならなくなってしまいました(大汗)
しかも、まだ書き終えていないから見切り発進です。
先にRequiemの第八章を載せようかとも思ったのですが、季節を今にあわせてしまったので、こちらを先に・・・
こんな無計画で大丈夫か?!わたし・・・
とりあえず、新シリーズ(?)スタートです。
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